不動産売却時の税金対策でお悩みの方へ 2023.11.30
マイホームや土地などの不動産の売却を考えている方にとって、悩みのタネといえば税金対策でしょう。「売却で利益が出ても、ほとんど税金で持っていかれるのでは……」、あるいは「購入時より安い金額でしか売れなかった上に、税金まで取られたら……」などと恐れている方も少なくないのではないでしょうか。この記事では、そうした方に向けて、不動産売却時の税金対策の種類や方法を解説していきます。
【不動産売却時にかかる税金の種類】
まず、不動産を売却した際に課税される税金の種類を押さえておきましょう。重要なのは所得税と住民税の二つです。
①印紙税(売買契約時)
売買契約の締結時に発生する費用です。契約書に記載する売買金額に応じて、以下の通り金額が決まっています。
・100万円超500万円以下:2,000円
・500万円超1,000万円以下:10,000円
・1,000万円超5,000万円以下:20,000円
・5,000万円超1億円以下:60,000円
・1億円超5億円以下:100,000円
ただし、平成9年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成されるものについては、契約書の作成年月日及び記載された契約金額に応じ、印紙税額が軽減されています。平成26年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成されるものについては以下の通りです。
・100万円超500万円以下:1,000円
・500万円超1,000万円以下:5,000円
・1,000万円超5,000万円以下:10,000円
・5,000万円超1億円以下:30,000円
・1億円超5億円以下:60,000円
②抵当権抹消の登録免許税(物件の引渡し時)
不動産に抵当権が設定されている場合、引渡しの際に抵当権抹消の登記を行う必要があります。その際、不動産1筆あたり1,000円の登録免許税が課税されます。土地と建物の2つを同時に売却する場合は2,000円です。なお、司法書士に手続を依頼する場合、報酬は1万5千円程が一般的です。
③所得税+復興特別所得税(売却の翌年の確定申告時)
不動産の売却に伴って発生する最も主要な税金です。売却金額にあたる「譲渡価額」から、購入時の金額にあたる「取得費(※)」と、売買に伴う「譲渡費用」を差し引いた「譲渡所得」がプラスとなった場合、その利益分に対して所得税が課税されます。売却金額そのものに所得税がかかるわけではありません。譲渡所得がマイナスとなった場合、所得税は課税されません。
これに加えて、2035年までの所得に対しては、復興特別所得税として通常の所得税額の2.1%が併せて課税されます。
所得税及び復興特別所得税は、売却の翌年の2月16日~3月15日の間に確定申告し、現金や口座振替などの方法で納税します。
(※)取得費のうち、土地に関する価格は購入した際の価格から変動しませんが、建物は年を経るごとに価格が減少(償却)しますので注意が必要です。
④住民税
所得税と同様、譲渡所得がプラスとなった場合、その利益分に対する課税分が翌年6月以降の住民税に加算されます。譲渡所得がマイナスの場合、住民税が増えることはありません。
〈所得税・住民税の税率〉
譲渡所得にかかる所得税及び住民税の税率は、その不動産を所有していた期間によって異なります。売却する年の1月1日時点における所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」、5年超の場合は「長期譲渡所得」となり、それぞれ以下の税率が適用されます。
・短期譲渡所得:所得税30%、住民税9%(合計39%)
・長期譲渡所得:所得税15%、住民税5%(合計20%)
また、所有期間10年超の居住用財産(マイホーム)の場合、さらに税率が軽減される特例があります(後述)。
〈復興特別所得税の税率〉
復興特別所得税は、前述の通り、通常の所得税額(基準所得税額)に対して一律2.1%の割合で加算されます(譲渡所得の2.1%ではありません)。
言い換えれば、復興特別所得税を含めた所得税率は、短期譲渡所得では30.63%、長期譲渡所得では15.315%ということになります。
【譲渡所得の計算方法】
前述のように、課税の基準となる譲渡所得は、以下の通り計算します。
・譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用
ただし、建物の場合、取得費は「減価償却」を踏まえて算出する必要があるため、単純に購入時の金額そのままとはなりません。
建物は購入時からの経過年数に応じて価値が下がっていくため、その価値の減少分を取得費から差し引いて計算する決まりになっています。これが減価償却であり、結局のところ、譲渡所得の計算における「取得費」とは、その建物の「残存価値」と読み替えてもいいでしょう。
減価償却については、建物が事業用か住居用かで扱いが異なり、建物の構造や経過年数に応じて細かく計算方法が決まっています。事業用の場合、度重なる税制改正を経ているため、取得年次によっても適用できる計算方法が異なります。ご自身で調べて計算することもできますが、不動産会社に査定を依頼するのが最も確実でしょう。
【不動産売却時の税金対策の種類】
ここからは、いよいよ不動産売却時の税金対策の方法について見ていきましょう。
税金対策と一口に言っても、実に様々な方法があります。
〈譲渡所得を抑える〉
・取得費が正確にわかる資料を揃える
・取得費を細かくリストアップし、加算できるものを加える
・リフォーム費用を取得費に加える
・譲渡費用を細かくリストアップし、漏れなく計上する
・相続物件の場合、取得費加算の特例を利用する
〈各種控除を利用する〉
・居住用財産の3,000万円特別控除を利用する
・共有名義の場合、各自に3,000万円特別控除を適用する
・相続空き家の3,000万円特別控除を利用する
・平成21年及び平成22年に取得した土地の1,000万円特別控除を利用する
・未利用土地等の100万円特別控除を利用する
・その他の各種特別控除を利用する
〈軽減税率を利用する〉
・居住用財産の10年超所有軽減税率の特例を利用する
〈課税の繰り延べを利用する〉
・居住用財産の買換え特例を利用し、課税の繰り延べの適用を受ける(※2023年12月31日まで)
・収益物件の場合、特定事業用資産の買換え特例を利用し、課税の繰り延べの適用を受ける
〈譲渡損失が生じた場合〉
・マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を利用する(※2023年12月31日まで)
〈その他〉
・税率が下がる所有期間5年超・10年超を意識して売却する
・ふるさと納税を活用し、住民税の控除や所得税の還付を受ける
これらの中には、一般の方には関係が薄いものや、限定的なケースでしか適用されないものもあります。
多くの方に関わりがあるのは、「居住用財産の3,000万円特別控除」、「居住用財産の10年超所有軽減税率の特例」、そして相続物件を売却した場合の「取得費加算の特例」の三つでしょう。以下、それぞれについて解説します。
【居住用財産の3,000万円特別控除】
居住用財産(マイホーム)を売却した場合、所有期間の長短に関わらず、譲渡所得から3,000万円まで(譲渡所得が3,000万円以下の場合はその金額)を控除できる特例があります。つまり、譲渡所得が3,000万円以下なら、所得税や住民税は基本的にかからないことになります。
居住用財産とは、自身が現に居住している家屋や、それと共に売却する敷地のことを指し、アパートやワンルームマンション等の収益物件や、別荘、仮住まい用の物件等は含まれません。
転居などを経て、売却の時点で既に居住していなくも、住まなくなってから3年後の12月31日までに売却すれば、この特例の対象となります。この場合、転居から売却までの間に、家屋を他人に貸し出すなどして収益物件となっていても、特例の適用を受けることができます。
転居後に家屋を取り壊した場合、「住まなくなってから3年後の12月31日」か「取り壊しから1年以内」のいずれか早い日までの売却なら、特例の対象となりますが、取り壊し後の更地を駐車場などにして収益化していた場合は適用対象外となります。
また、3年以内にこの特例や、マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例、マイホームの買換えやマイホームの交換の特例などを受けていないこと、売り手と買い手が親子や夫婦などの特別な関係にないことなども条件となります。
【居住用財産の10年超所有軽減税率の特例】
前述のように、長期譲渡所得(所有期間5年超)の税率は、所得税15%+住民税5%で合計20%(+復興特別所得税)が原則ですが、居住用財産(マイホーム)の売却で所有期間が10年を超える場合、さらに軽減税率が適用される特例があります。
軽減税率は以下の通りであり、これに加えて、復興特別所得税が所得税額の2.1%の割合で加算されます。
・譲渡所得6,000万円以下の部分に対して:所得税10%、住民税4%(合計14%)
・譲渡所得6,000万円超の部分に対して:所得税15%、住民税5%(合計20%)
つまり、譲渡所得が6,000万円以下の場合は、14%(+復興特別所得税)の税率でしか課税されないことになります。
また、この軽減税率の特例は、居住用財産の3,000万円特別控除と併用が可能です。この場合、譲渡所得から3,000万円を差し引いた上で、残りの部分に対して上記の軽減税率が適用されます。
例えば、譲渡所得が1億円であった場合、3,000万円控除により課税対象は7,000万円となり、その内の6,000万円に対しては14%、残りの1,000万円に対しては20%の税率(+復興特別所得税)で課税されることになります。
【相続物件の取得費加算の特例】
相続や遺贈によって不動産を取得し、相続税を支払った上で、相続税の申告期限(通常は被相続人の死亡から10ヶ月後)から3年以内にその不動産を売却した場合に適用できる特例です。納税した相続税額の内、その物件に対して課税された金額を、物件の取得費に加算することができます。
なお、相続した不動産を売却する場合、所有期間は相続前からの通算となります。つまり、被相続人がその物件を5年以上所有していたなら、相続後すぐに売却しても、長期譲渡所得の税率が適用されることになります。
【その他の重要な特例】
上で紹介した三つの他に、一般の方でも該当しやすいものとしては以下の特例があります。
《居住用財産の買換え特例》
特定のマイホームを売却し、代わりのマイホームに買い換える場合、一定の要件を満たせば譲渡益への課税が将来に繰り延べることができる特例です。非課税となるわけではありませんが、買い替えたマイホームを将来譲渡したときまで、課税を先送りにすることができます。
《譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例》
マイホームを買い替えた場合において、旧居宅の売却で譲渡損失が生じたときは、一定の要件を満たせばその譲渡損失を他の所得から控除(損益通算)することができる特例です。譲渡損失が翌年分の確定申告で控除しきれなかった場合、さらに向こう3年以内に繰り越して控除することができます。
上記二つの特例は、2023年末までで終了する予定となっていますが、期間が延長される可能性もあります。詳細については、不動産会社などの専門家に相談することをお勧めします。
これらの制度を上手に活用すれば、不動産売却時の税金を大きく抑えたり、ゼロにすることができます。
ご自身のケースでどの制度が適用できるか、具体的にいくら節税できるかについては、不動産会社に相談してみるとよいでしょう。