初めての不動産売却をお考えの方へ 2023.10.04
土地や家屋の相続、今のお住まいからの買い換えなどで、不動産の売却をお考えの方もいらっしゃるかと思います。しかし、一般の方にとって不動産の売買は縁遠く、初めての取引には不安や疑問も付きもの。ここでは、そうした方に向けて、不動産売却の流れや費用、不動産会社に売却を依頼することのメリット・デメリットなどを解説しています。
【不動産売却の流れ】
親族の土地や家屋を相続したものの、自ら活用するあてもなく、管理費や固定資産税がかさむので売却してしまいたい……という悩みをお抱えの方は昨今増えています。
親類や知人で買い手が見つかればいいですが、多くの場合は、不動産会社と「媒介契約」を結んで売却を依頼し、広く買い手を募ることになります。
不動産の売却を決意してから、実際の売却までの流れは概ね以下のようになります。
①相場の調査・希望条件の整理
土地や建物の状態と立地から、一般的にどのくらいの金額で取引されているのかを調べ、希望する売却条件を整理します。ローンの残債や、土地の場合は境界線も確認しておきましょう。相続した不動産の場合、相続登記(名義の変更)も必要になります。
②不動産会社への相談
身近に買い手となる人がいない場合、買い手を探すためには不動産会社との相談が必要不可欠です。まずは気軽に相談をしてみましょう。実際にどのくらいの金額で売却できそうかの査定や、売却の仕方の戦略など、不動産会社は具体的な情報を提供してくれます。
信頼できる不動産会社が見つかったら、「媒介契約」を結び、いよいよ売却活動を始めることになります。
③売却活動・条件交渉
ひとたび媒介契約を結んだら、不動産会社は広告を出したり営業を行うなどして買い手を探します。
家屋の場合、興味を持った人から内覧の希望が入りますので、家を綺麗に掃除・整理しておいて、良い印象を持ってもらえるようにしましょう。内覧時の案内・説明などは不動産会社の担当者が行いますが、売主の立ち会いがあった方が良いこともあります。
購入希望者から、値引きや売買時期などの条件の交渉を依頼されることもあります。特に早期の売却を望む場合、買い手の要望を前向きに検討することも重要です。
④売買契約の締結
買い手が見つかり、条件面の交渉が成立したら、いよいよ売買契約の締結になります。不動産会社が間に入り、買主の住宅ローンの事前審査や、物件の最終調査といった必要な手続きを進めます。売主の側では、登記済権利証(登記識別情報通知)などの必要書類を準備しておきましょう。
契約時には、多くの場合は不動産会社のオフィスなどで当事者が一同に介し、宅地建物取引士による重要事項の説明を経て、契約書に署名・押印を行うことになります。手付金の授受も行います。
⑤代金の決済・物件の引渡し
契約時に取り決めた方法で、買主から売買代金の支払いを受け、土地や建物の引渡し・所有権の移転を行います。住宅ローンなどの残債がある場合、金融機関への返済もこの時に行います。また、土地の引渡しの前には、面積や境界線の確定のため、境界確定測量を行わなければならない場合もあります。
なお、登記の手続きを依頼する司法書士は、買主側が手配するのが一般的ですが、不動産会社を通じて売主側も状況を把握しておきましょう。
⑥売却後の確定申告
会社員などの給与所得者の方であっても、不動産売却で利益を得た場合は税務署に確定申告を行う必要があります。売却の翌年の2~3月に申告を行い、所得税を納付します。
売却を経て赤字になってしまった場合でも、申告することで納税額を減らせる可能性があるため、確定申告は行いましょう。
【不動産売却の方法】
《売却方法の種類》
不動産を売却する方法には、大きく分けて「仲介」と「買取」の二つがあります。
仲介は、前述の流れの説明のように、不動産会社が媒介契約に基づいて買い手を探し、売買の仲立ちをするものです。一方、買取とは、不動産会社が直接買い手となって、土地や家屋を買い取ることをいいます。また、両者のメリットを組み合わせた「買取保証」という方法もあります。
《仲介のメリット・デメリット》
仲介のメリットは、何と言っても、より高い金額で売却できる可能性があることです。不動産会社が直接買取を行う場合、利益を出すために買取価格を抑える必要がありますが、仲介の場合は取引額に応じた仲介手数料が利益となるため、不動産会社としても高い金額での売却を目指して売却活動を行うわけです。
一方、仲介のデメリットは、買い手が決まるまでに一定程度の期間を要し、早期の売却には向かないことです。場合によっては買い手が見つからないこともあります。買い換えのために早く売却したいという方には、リスクが大きいといえるでしょう。
《買取のメリット・デメリット》
買取のメリットは、不動産会社が直接買い手となるため、短期間で売却が成立することです。加えて、周囲に知られることなく売却できたり、手間や諸経費を抑えられたり、民法上の「契約不適合責任」(旧:瑕疵担保責任)を負うリスクが少ないといった利点もあります。相続税などの関係で、どうしても早く現金化したいという方には特に向いている方法といえます。
一方、仲介の場合と比べて、売却金額がどうしても低くなってしまう点がデメリットです。二つの方法の長所と短所を比較し、ご自身の状況に合った売却方法を選びましょう。
【不動産売却に必要なもの・費用】
《不動産売却に必要なもの》
不動産の売却には、多くの書類などが必要になります。不動産会社のアドバイスを参考に、計画的に準備していきましょう。
①登記済権利証または登記識別情報通知
所有権の証明となる書類です。従来は登記済権利証という書類(いわゆる権利証)でしたが、平成17年以降は登記手続の電子化に伴い、登記識別情報の通知書という形になっています。重要性・効力はいずれも同じです。
②実印・印鑑証明書
売却不動産が共有名義の場合、全員の実印と印鑑証明書が必要です。
③固定資産税・都市計画税納税通知書
年間の税額の確認や、買主との税負担割合の計算のために必要になります。また、買主への所有権移転の際の登録免許税算出のために、通知書に記載された評価額が必要になります。
④建築確認通知書・検査済証
⑤測量図・建物図面・建築協定書など
⑥物件状況等報告書
⑦設備表
土地や建物の詳細や状況を確認・証明するための各種書類です。
マンションなどの集合住宅の場合、管理規約やパンフレット、管理組合総会議事録なども必要になります。
⑧本人確認書類(運転免許証など)
契約手続時の本人確認に必要になります。
⑨抵当権等抹消書類
住宅ローンの借入時に設定した、金融機関の抵当権を解除するための書類です。売買契約後の物件引渡し時に必要になります。
⑩建物の鍵など
物件引渡し時に必要になります。
《不動産売却の費用》
不動産の売却には、段階ごとに様々な費用が必要になります。
①仲介手数料
媒介契約の費用として不動産会社に支払うもので、正式には「媒介報酬」といいます。売却金額に応じて、法律で以下の通り上限が決まっています(いずれも別途消費税)。
・売却金額200万円以下:売却金額の5%
・売却金額200万円超400万円以下:売却金額の4%+2万円
・売却金額400万円超:売却金額の3%+6万円
②収入印紙代(印紙税)
不動産の売買契約書には、売却金額に応じて、法律で決められた額の収入印紙を貼付する必要があります。例えば、売却金額1,000万円超5,000万円以下の場合、収入印紙代(印紙税)は現在減免されて1万円です。
この費用は売主と買主がそれぞれ負担するのが原則ですが、一方が負担する特約を交わすこともあります。
③抵当権抹消費用
住宅ローンの残債がある場合、買主から受け取る売却代金で金融機関への返済を済ませ、抵当権を解除してもらう手続きを行う必要があります。この際の司法書士への報酬と登録免許税で、概ね2~3万円の費用が必要になります。
④土地の測量費用
土地の売買の際には、土地家屋調査士が作成した「確定測量図」と、隣地所有者との境界の合意を証明する「境界確認書」が必要になることが一般的です。相続などで古い土地を入手した場合、これらの書類が存在していないことも多く、新たに土地家屋調査士に依頼して測量を行わなければなりません。業者の手配は不動産会社が行えますが、調査費用は売主の負担となります。
費用の相場は、その土地の大きさや、隣接する土地の種類(民地、道路、河川など)により異なります。
⑤その他の費用
上記の他にも、場合に応じて以下のような費用がかかります。
・建物の解体費用:古い家屋などを解体して土地を売却する場合。100~300万円程度
・ハウスクリーニング費用:3~15万円程度
・必要書類の取得費用:1通あたり300円程度
⑥不動産譲渡税
売却自体の費用とは異なりますが、忘れてはいけないのが税金です。以下の計算で算出される「譲渡所得」がプラスの場合、所得税や住民税が課税されます。
・譲渡所得 = 譲渡収入金額(物件を売却して得た金額) – 取得費(その物件を購入した際の費用)– 譲渡費用(売却時の諸費用)
不動産譲渡税の税率は、売却不動産を所有していた期間によって異なります。
・短期譲渡所得(所有期間が5年以内の場合):譲渡所得×39.63%(所得税:30.63%、住民税:9%)
・長期譲渡所得(所有期間が5年超の場合):譲渡所得×20.315%(所得税:15.315%、住民税:5%)
※2037年までは、2.1%の復興特別所得税が加算されます。
【不動産会社に売却を依頼するメリット・デメリット】
《不動産会社がやってくれること》
初めての不動産売却を考えている方にとって、心強い味方となるのが不動産会社です。
仲介の場合、不動産会社は、物件の査定を行った上で、媒介契約に基づいて買い手を探し、売買契約の完了まで責任をもって仲立ちを行います。
なお、媒介契約には「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」の三種類があり、一つの不動産会社に手厚くフォローしてもらいたいなら専属専任媒介契約や専任媒介契約、複数の不動産会社に依頼することで早期に買い手を見つけたいなら一般媒介契約がお勧めです。
買取の場合でも、同様に丁寧な査定を行い、売り手の事情に沿った買取時期などを調整してもらえます。
さらに、一定期間は仲介として買い手を探し、その期間内に買い手が見つからなかった場合は不動産会社が自ら物件を買い取る、「買取保証」という方法もあります。
《不動産会社に依頼するメリット》
初めての方が自力で不動産を売却するのは大変難しいものです。不動産取引のプロである不動産会社に依頼すれば、物件の適正な価値を知ることもでき、売却までの様々な手間も大幅に削減することができます。司法書士や測量業者などの専門家の手配も、不動産会社で一括して行うことができます。
広告活動や業者間のネットワークを用いて、条件に合う買い手を短期間で見つけることができるのも、不動産会社に依頼する大きなメリットです。
《不動産会社に依頼するデメリット》
不動産会社に仲介を依頼すると仲介手数料がかかるため、親類や知人など自力で買い手を見つけられる見込みがある方は、個人での取引も選択肢に入るでしょう。特に、「専属専任媒介契約」を不動産会社と結んだ場合、その後自力で買い手を見つけたとしても、契約した不動産会社を介して取引し、仲介手数料を支払わなければなりません。
また、大手の不動産会社に仲介を依頼する場合、どうしてもビジネスライクでドライな対応になってしまったり、売主と買主の両方を自社顧客から探そうとする結果、成約まで時間を要したり、場合によっては条件変更が生じることもあります。
かたや、中小規模の不動産会社に依頼する場合、買い手候補が少なかったり、会社や担当者ごとの得意・不得意が大きかったりするため、やはり結果として売却まで時間がかかったり、希望の条件で売却できなかったりする可能性もあります。
このように、不動産会社に依頼する上でも気をつけるべき点は色々とありますが、それでも多くの方にとっては、不動産会社に頼むメリットの方が多いのは間違いないでしょう。