相続登記の義務化について 2024.06.12
近年、所有者不明土地の増加が大きな社会問題となっています。
所有者不明土地とは、登記簿に記載された情報により所有者が直ちに判明しない土地、又は所有者が判明してもその所在が不明で連絡がとれない土地のことです。
令和4年に国土交通省が行った調査では、所有者不明土地の割合は、日本の国土の24%に達し、その面積は九州地方に匹敵します。そして、所有者不明土地の発生原因の61%は相続登記が行われていないことによるものとされています。
相続登記が行われていない理由は、相続登記の申請が義務ではなく、申請をしなくても不利益を被ることが少ないことや、地方を中心に土地の所有意識の希薄化や、土地利用のニーズが低下傾向にあること、登記されずに相続が繰り返されたために法定相続人がねずみ算式に増加してしまい、相続登記の前提となる遺産分割協議自体が困難になることなどが挙げられます。
このような背景を踏まえ、所有者不明土地が発生する大きな要因となっていた相続登記未了について、令和3年の不動産登記法の改正により、任意とされてきた相続登記の申請が法律で義務付けられました。
以下に、相続登記の申請義務化及び同時に開始する制度である相続人申告登記について詳しく説明します。
相続登記申請義務化の概要
1.相続登記の申請義務化とは
相続人は、不動産(土地・建物)を相続により取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請することが法律により義務化されました。正当な理由なく相続登記を申請しないと10万円以下の過料が科されることがあります。遺産分割協議により不動産を取得した場合には、遺産分割から3年以内に、遺産分割の内容に応じた相続登記をしなければなりません。
2.相続登記申請が義務化された理由
相続登記がなされないことで、登記簿を見ても所有者が分からない「所有者不明土地」が増加し、管理が行き届かない土地や建物があっても所有者に対して是正を促すことができません。その結果、周辺の環境が悪化したり、民間の取引や公共事業を阻害するなど、大きな社会問題となっています。
この問題を解決するため、令和3年に不動産登記法が改正されて、任意だった相続登記の申請が法律で義務化されました。
3.相続登記の申請義務化の開始時期
相続登記申請の義務化は令和6年4月1日から開始されました。
なお、この開始時期である令和6年4月1日以前に相続が発生した不動産についても、相続登記がなされていないものは義務化の対象となるので注意が必要です。
4.相続登記申請の期限
相続登記の申請は、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内です。令和6年4月1日より前に相続した不動産については、令和6年4月1日又は相続によって不動産を取得した日のいずれか遅い日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
5.相続登記についての相談窓口
最寄りの法務局(予約制で手続案内を行っています。)や、登記の専門家である司法書士、司法書士会等にご相談ください。詳しくは法務局のホームページ(法務省:相続登記の申請義務化特設ページ (moj.go.jp))を確認ください。
なお、当社にも専門的な知識を有するスタッフがおりますので、必要に応じて登記、法律や税金の専門家などとともにご相談に応じることができます。お気軽にご相談ください。
登記義務の範囲
1.登記しなければならない不動産
不動産を相続したら、相続登記申請の対象となります。遺産分割が成立して不動産を相続した場合、亡くなった方から不動産を遺贈された場合も申請の対象となります。
2.相続登記申請の前にしなければならないこと
被相続人が亡くなると、その法定相続人は配偶者や子どもたちなど複数いる場合があります。子どもがいない場合にはもっと複雑になることがあります。まずは法定相続人の間で早めに遺産分割の相談を行ってください。その結果、不動産を取得した方は、法務局に相続登記を申請する必要があります。法定相続人が誰かわからないなど、電話でもある程度ご相談できますので、困ったときはお気軽にお問い合わせください。
早期の遺産分割が難しい場合には、新設された「相続人申告登記」(後述)の手続を行うこともできます。
3.相続登記の申請義務の範囲
相続登記の申請義務は、特定の不動産を相続により取得したことを「知った日」から発生しますので、特定の不動産を取得したことを具体的に知るまでは、相続登記の申請義務はありません。
なお、特定の不動産の他にも相続財産がある場合があります。相続財産は、土地・建物に限らず債務がある場合があります。一度部分的にでも相続すると、相続放棄はできなくなりますので、申請の期限3年間に相続財産の範囲はきちんと調べる必要がありますのでご注意ください。
4.相続登記申請の義務者
相続登記の申請義務は、相続で不動産を取得した人が対象です。従って、遺産分割協議により不動産を取得した本人に申請義務が生じますので、不動産を取得しなかった人には相続登記の申請義務はありません。
過 料
1.過料の対象
(1) 令和6年4月1日以降に相続が発生した場合
相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しない場合、又は、遺産分割によって不動産を取得した場合には、遺産分割の日から3年以内に相続登記を申請しない場合で、相続登記を申請しないことに「正当な理由」(後述)がないときには過料の適用対象となります。
(2) 令和6年4月1目以前に相続が発生した場合
相続登記の申請義務化が始まる令和6年4月1日、又は、相続によって不動産を取得したことを知った日、若しくは、遺産分割によって不動産を取得した場合は遺産分割の日のいずれか遅い日から3年以内に相続登記を申請しない場合で、相続登記を申請しないことに「正当な理由」(後述)がないときには過料の適用対象となります。
2.過料が行われる場合
登記官が義務違反を把握した場合、義務違反者に相続登記を申請するよう催告書を送付して催告します。催告書に記載された期限内に登記を行わないと、登記官は裁判所に対してその申請義務違反を通知します。
ただし、催告を受けた相続人からの事情説明により、 登記官が登記申請を行わないことについて「正当な理由」(後述)があると認めた場合には裁判所に対する申請義務違反の通知は行いません。
3.登記官が申請を催告する場合
登記官は、相続人が不動産の取得を知った日を把握することは困難です。そのため、相続人が遺言書又は遺産分割協議書を添付してその内容に基づき特定の不動産の相続登記を申請した場合に、その遺言書又は分割協議書に、他の不動産についてもその相続人が相続する旨が記載されていて、義務に違反したと認められることを職務上知ったときに限り、申請の催告を行うこととされています。
4.相続登記を行わないことについての「正当な理由」
相続登記の申請を行わなければいけない3年間において 次の①から⑤までのような事情が認められる場合には、一般に「正当な理由」があると認められます。もっとも、これらに該当しない場合でも、 個別の事情に応じ登記をしないことについて理由があり、その理由に正当性が認められる場合には、「正当な理由」があると認められます。
① 相続登記の申請義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
② 相続登記の申請義務に係る相続について、遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
③ 相続登記の申請義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
④ 相続登記の申請義務を負う者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第1条第 2項に規定する被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
⑤ 相続登記の申請義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合
相続人申告登記
1.相続人申告登記とは
相続登記の申請議務化に伴い、相続登記申請の義務を履行するための簡易な方法として新設された制度で令和6年 4月1日から始まりました。
なお、遺産分割協議に基づき登記を申請する義務を相続人申告登記によって履行することはできません。又、相続人申告登記は不動産にかかる権利関係を公示するものではなく、後述するとおり効果は限定的であることに留意が必要です。
2.相続人申告登記を利用するケース
相続登記を申請しようとする場合、被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本などの書類を集め、法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定、又は、遺産の分割協議を行い相続人ごとの相続分を確定する必要があります。これらの作業を3年の期限内に完了して相続登記を申請することが難しい場合などに、簡易に相続登記の申請義務を果たすために利用できます。
相続した不動産を売却する場合や、融資を受けるために抵当権を設定するような場合には、相続登記が完了している必要がありますので、早めに相続人の間で遺産分割協議を行い、協議結果に基づいて相続登記を申請してください。
3.相続人申告登記の方法など
法務局に対し、登記の対象となる不動産を特定した上で、登記簿に記載されている名義人について相続が開始したこと、自分がその相続人である旨を3年の期限内に申し出ます。
登記官は、所要の審査をしたうえで、申し出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記に付記します。
申し出は、特定の相続人が単独で行うことができます。委任状を添えて他の相続人の分も含めた代理申し出も可能です。申し出手続きはオンラインでも可能で、署名・押印は不要です。ブラウザ上から手続きが可能で、特定のソフトウエアは必要ありません。法定相続人の範囲や相続割合の確定は不要です。
申出書や委任状は法務局のホームページからダウンロードもできますし、ブラウザ上(かんたん登記申請 (moj.go.jp))から作成・送信も可能です。
相続には様々なケースが存在しますが、被相続人(死亡した方)の配偶者と子どもが相続人の場合、一般的に、①被相続人の死亡した日及び申出人(配偶者)が被相続人の配偶者であることが分かる戸籍の証明書(戸除籍謄本等)、②申出人(子)が被相続人の子であることが分かる戸籍の証明書、③被相続人の死亡した日以後に発行された申出人(子)についての戸籍の証明書が必要になります。1通の証明書で①~③を満たす場合には、その証明書の添付で足ります。
例えば、1通の証明書に被相続人の死亡した日が記載され、かつ、申出人(配偶者)が被相続人の配偶者として、申出人(子)が被相続人の子として記載されている場合(申出人につきその戸籍から除籍された旨の記載があるものを除く。)には、その証明書の添付で足ります。
これに対し、被相続人が死亡する前に申出人(子)が結婚した場合など、被相続人の死亡した日及び申出人(配偶者)が被相続人であること(上記①)が記載された証明書に、申出人(子)の記載がされていないときは、上記①の証明書に加えて、上記②を満たす被相続人の過去の戸籍の証明書と上記③の証明書が必要になります(どの戸籍の証明書が必要かの判断が難しい場合には、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍の証明書と、申出人の現在の戸籍の証明書を提出いただいても差し支えありません。)。
詳しくは、法務局のホームページ(法務省:相続人申告登記について (moj.go.jp))を確認してください。様々なケースごとに必要な書類等が案内されています。また、当社にも相続登記に関する専門的な知識を有するスタッフがおりますので、必要に応じて提携する司法書士とともにご相談に応じることができます。お気軽にご相談ください。