不動産売却 税金計算から節税まで徹底解説 2024.03.22
大きなお金が動く不動産の売却について、どのくらい税金がかかるのか心配で眠れないという人も多いのではないでしょうか。課税される税金の中でも注意したいのは、売却利益に課税される「譲渡所得税・住民税」です。節税できる特例も用意されていますので、売却時にはよく確認しておきましょう。
本記事では、税金の計算方法から特例の内容まで、幅広く紹介しています。
1. 不動産の売却で発生する税金の概要と種類
不動産の売却にかかる税金にはどのような種類があるのでしょうか。その種類と計算方法について紹介します。
1-1. 譲渡所得税について
不動産の売却益には譲渡所得税が課税されます。課税される譲渡所得税の計算式は次のとおりです。
譲渡所得税
譲渡所得 = 物件を売った金額 – (物件を買った費用 + 売却時の諸費用)
譲渡所得税額 = (譲渡所得 – 特別控除額) × 税率
譲渡所得税は、単に購入価格と売却価格の差益に課税されるものではありません。不動産の購入と売却にかかった諸経費を引いた利益に対して、譲渡所得税が課税されます。
1-2. 住民税について
不動産の売却によって利益が出た場合、住民税も加算されます。課税される住民税の計算式は次のとおりです。
住民税
住民税額 = 譲渡所得 × 税率
2. 所有期間による税金の違い
不動産の所有期間によって税率は異なります。所有期間による税率の違いと計算方法について、詳細を説明します。
2-1. 短期所有と長期所有の税金計算の違い
譲渡所得は、不動産の所有期間に応じて長期譲渡所得と短期譲渡所得に分けられます。売却時に不動産の所有期間が5年を超えている場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」に区別されます。不動産を保有する期間が長いと税率は低くなり、節税できます。
譲渡所得を区分する際の不動産所有期間は、譲渡した月の1月1日時点で不動産を所有していた期間で決まります。譲渡した月が1月でも12月でも、その年の1月1日時点の所有期間で判断されされる点に注意が必要です。
2-2. 短期・長期の期間基準と税率の変化
長期譲渡所得と短期譲渡所得それぞれにかかる税率を一覧表にまとめました。
所得区分 | 長期譲渡所得 | 短期譲渡所得 |
所有期間 | 5年超 | 5年以下 |
税 率 | 20.315% 所得税:15.315% 住民税:5% | 39.63% 所得税:30.63% 住民税:9% |
長期譲渡所得の税率は20.315%ですが、短期譲渡所得の税率は39.63%と、倍近くになっている点に注目です。不動産の所有期間が異なるだけなのに、税率は大きく変わります。支払う税金にも大きな差が出るため、売却するタイミングはよく見極めなければいけません。
なお、東日本大震災の被災地復興のために新設された税金で、譲渡税の場合、所得税額の2.1%が復興特別所得税として課税されます。上記の所得税率には、この2.1%が含まれて表示されています。
3. 節税のための特例制度の活用法
不動産の売却には節税に効果的な特例が設けられています。
特例の内容と節税方法について、詳細を説明します。
3-1. 特別控除や特例の適用条件と範囲
土地や建物を売却した時に受けられる譲渡所得の特例は、次の5通りです。
1.被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除制度の特例
2.マイホームを売却した時の3,000万円の特別控除
3.相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
4.特定の居住用財産の買換え等の場合の長期譲渡所得の課税の特例
5.マイホームを売った時の軽減税率の特例
それぞれの特別控除は特例ごとの譲渡益が上限となります。全体を通じて、その年の特別控除限度額は5,000万円です。5つの中で一般的にもっとも身近な特例は、マイホーム売却時の3,000万円特別控除ではないでしょうか。
マイホーム売却時の3,000万円特別控除の適用要件は次の6つです。
1.次のいずれかをクリアするマイホームであること
a. 現在、主に住んでいる自宅である
b. 転居済みの場合、転居後3年目の年末までの売却である
c. かつ土地の売却契約締結が解体から1年以内であり、その土地を賃貸していない
d. 単身赴任の場合、配偶者が住んでいる建物である
2.親族間の取引でない
3.売却した年の前年・前々年に、同様の特別控除または損益通算、損失の繰越控除の特例を使っていない
4.売却年、または前年・前々年に、マイホームの買い換えや交換の特例を受けていない
5.売却した不動産について、固定資産の交換特例や収用等の特別控除などほかの特例を受けていない
6. 災害によって売却する場合は、住まなくなった日から3年後の年の12月31日までの売却
控除を受けるには、以上の6つの要件をクリアしなければいけません。
さらに詳しく調べたい人は、国税庁のホームページで確認してください。今後のコラムでも更新していく次予定です。
3-2. 住宅ローン減税の活用方法
マイホームの買い替え後でも住宅ローン控除は受けられます。しかし、引き続き住宅ローン控除を受けるには、次の条件をクリアしなければいけません。
1.自分で住む住宅であること
2.床面積が50㎡以上であること
3.現在の耐震基準を満たしていること
前提条件は、引き渡しから6ヶ月以内に、床面積50㎡以上の住宅に住み始めることです。住宅は現行の耐震基準をクリアしていなければいけません。買い替え後も住宅ローン控除を考えている人は、3つの点をよく確認するようにしましょう。
4. 不動産売却手続きに必要な書類や手順
不動産の売却手続きに必要な書類と売却までの流れについて説明します。
4-1. 登記手続きや仲介会社との契約方法
売却の査定を依頼したいくつかの不動産会社の中から、ひとつの会社を選んで媒介契約を締結します。これを専任媒介型式あるいは専属専任媒介型式といいます。媒介契約の型式には、この他に一般媒介契約がありますが、これら媒介契約の型式などについては、別の機会に説明しましょう。
買い手が見つかり、売買契約の準備が整ったら売買契約締結の日を設けます。この日は売主と買主が不動産会社などに集まって「売買契約書」と「重要事項説明書」などの内容を確認のうえ、署名・押印する日です。売買契約日に行う手続きは次の3点です。
1.重要事項の説明・確認(物件及び付帯設備等に関する告知も含みます)
2.売買契約の締結
3.手付金の授受
その後、物件の引き渡し日には、売主と買主、不動産会社の担当者、司法書士などが集合の上、代金の決済や登記の移転手続きを行います。登記手続きは司法書士に委任して行うことが一般的です。不動産の登記など手続きの上で多くの書類が必要になりますが、その詳細は不動産会社から案内があります。
どの不動産取引にも共通して必要な書類は次の4点です。
1.登記申請書類(登記の委任状、登記原因証明情報など)
2.本人確認書類
3.実印と印鑑証明書(売主)
4.住民票の写し(買主)
不動産の売却を計画する際には、必要書類を前もって揃えておくと良いでしょう。
4-2. 売却損や売却益の申告手続きの流れ
不動産を売却後、利益が出たら確定申告が必要です。損失が出た場合、確定申告の必要はありませんが、特例として他の所得との損益通算と繰越控除が認められるケースがあります。損益通算と繰越控除を希望する場合は、確定申告が必要です。損益通算や繰越控除が認められる特例は次の2つです。
1.特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
2.居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
所有期間5年を超える国内のマイホームを売却して損失が出た場合、一定の要件を満たすことで損失金額を翌年以後3年間、他の所得と損益通算できます。損益通算は、他の所得と相殺して課税金額を圧縮できるため、節税ができる仕組みです。
繰越控除は、相殺しきれなかった金額を、翌年以降3年間繰り越して、他の所得と相殺できる特例です。
買い替えの際も同様に、手出しが発生してしまった場合に、損益通算や繰越控除の特例が認められます。
不動産売却時の確定申告の流れは次のとおりです。
1.取得費・譲渡費用・減価償却費を算出する
2.課税譲渡所得金額を算出する
3.総合課税・申告分離課税の確定申告書の準備と税務署への申告
流れ自体はシンプルですが、確定申告の書類作成に至るまでの計算は一苦労です。計算に必要な書類は事前に揃えておきましょう。
5. 不動産売却時の消費税とその計算方法
不動産売却時は消費税がかかるケースがあります。消費税の課税対象となる人や法人、計算式について説明します。
5-1. 不動産売買における消費税の課税対象
不動産売却時に消費税の課税対象となる人や法人を一覧表にまとめました。
消費税 | ||
個人 | 支払わない | |
個人事業主(事業用不動産) | 課税事業者 | 支払う |
免税事業者 | 支払わない | |
法人 | 課税事業者 | 支払う |
免税事業者 | 支払わない |
課税事業者と免税事業者によって消費税の扱いは異なります。線引がやや複雑なので、不明点があれば税務署へ問い合わてください。
5-2. 売却時にかかる消費税の計算方法
消費税の計算方法は10%です。課税対象は建物のみに限られます。土地は対象外なので消費税の計算では含めないようにしましょう。
消費税は次の計算式で算出できます。
不動産の売却金額 ÷ 1.1 × 0.1
契約書に記載されている不動産売却金額は、建物と土地の金額が明確に分けられていないケースもあります。建物と土地の価格が分けられていない場合、固定資産評価額などを元に消費税を算出します。
6. 不動産売却の税金計算のシミュレーション事例
実際の売却金額を元に税金計算をシミュレーションしてみましょう。
6-1. 土地や住宅、マンション別の税金計算シミュレーション
2,000万円で購入した土地を2,500万円で売却するケースを想定して計算してみます。
所有期間4年で売却したという想定です。
計算式は(売却価格 – 購入価格 – 諸費用(取得時・売却時双方の費用))×税率(39.63%)
(2,500万円-2,000万円-250万円)×39.63%=約99万円
納める税金は約99万円となりました。
不動産を5年以上所有していた場合の計算式は次のとおりです。
(2,500万円-2,000万円-250万円)×20.315%=約50万円
5年以上不動産を所有していたケースでは、収める税金は約50万円です。
建物の取得費用がわからない場合は、売却金額の5%を取得費として算出します。計算式は次のとおりです。
譲渡益=売却価格-(取得費+譲渡費用(仲介手数料+印紙税など))
=2500万円ー(125万円+250万円)
=2125万円
短期譲渡所得の場合 2125万円×税率39.63%=842万円
長期譲渡所得の場合 2125万円×税率20.315%=431万円
6-2. 節税対策を活用した税金計算シミュレーション
マイホーム売却時の3,000万円特別控除を活用したケースをシミュレーションしてみましょう。
2,000万円で購入したマイホームを2,500万円で売却しました。
物件の所有期間は7年の想定です。
譲渡所得税は(売却価格 – 購入価格 – 諸費用 – 特別控除)にて算出されます。
この場合、計算式は次のとおりです。
(2,500万円-2,000万円-250万円-3,000万円)=-2,750万円
特別控除によって譲渡所得税はマイナスとなるため、課税はありません。
7.税金計算のポイントとまとめ
不動産の売却で得た譲渡益にはしっかり課税されますが、特例も用意されています。課税金額を減らすことはできますので、不動産を売却するときには、特例もよく確認しておきましょう。
特に所有期間5年以内と5年以上の売却では、所得税と住民税の税率が大きく異なります。収める税金にかなりの差が出ますので、譲渡利益が出そうなときは、売却時期をよく検討した方が無難です。